肉の手帖
ゼロから学ぶ畜産 / 肥育ホルモン剤【ひいく・ほるもん・ざい】
3行でわかる肥育ホルモン剤
- 動物の成長を促す動物用医薬品です
- EUでは、肥育ホルモン剤の使用、および使用した牛肉の輸入は禁止されています
- 日本での使用は現状、認められていません
肥育ホルモン剤とは
動物の成長を促す動物用医薬品のことで、天然型ホルモン剤と合成型ホルモン剤の2種類に大きく分かれます。天然型は生物がもともと持っている成分から作られたホルモン剤、合成型は生物が持っていない人の手で作られた成分によるホルモン剤です。
肥育ホルモン剤は、主に経営的な理由から使われます。牛の成長が早くなれば、それだけエサの量が減らせるので、経営が助かるというわけです。
日本には現状、使用できる肥育ホルモン剤がない
本記事の執筆時点では、日本国内で使用が認められた「成長を促す」目的の肥育ホルモン剤はありません(医療用目的の天然型ホルモン剤のみ、使用を認められたものがあります)
ただ、全面的に使用が禁止されているわけではありません。ある会社が「この肥育ホルモン剤を国内で販売したい」と農林水産大臣に申請して、認められれば使用できるようになります。
(ですが、日本の動物用医薬品の承認はハードルがとても高いため、現実的には厳しいと言われています)
ちなみに、国は輸入牛肉に対する残留農薬調査を実施しており、その結果をインターネット上で公開しています。
食品中の残留農薬など|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/index.html
こちらの最新のデータによれば、2011〜2015の間に牛肉から肥育ホルモン剤(合成型)が検出されたことはありません。
残留基準値を守れば安全と科学的に確認されている
WHOとFAOが取り決めている食品の国際標準規格CODEX(コーデックス)によれば、肥育ホルモン剤は残留基準値を守って使う限り、人の健康に悪影響は及ぼさないとされます。
この基準値は各国が独自に定めており、牛肉の場合、筋肉や肝臓など部位別に値が設定されています。
日本の牛肉の主要輸入国(アメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド)を見てみますと、
- 天然型ホルモン剤については、アメリカ以外が基準値を不要としています(CODEXも不要としています)。アメリカだけ基準値を設けています。
- 合成型ホルモン剤については、カナダはCODEXの基準値とおおむね同じです。アメリカとオーストラリアは、CODEXの基準値をやや上回っています。
現状安全でも、将来的にも安全とは限らない
ただし、ホルモンの人体への影響は未解明な部分も多く、現在も研究途上です。その結果に応じて、CODEXや各国は基準値を都度、見直しています。
そのため、いま安全とされている肥育ホルモン剤から、新たなリスクが発見される可能性もゼロではありません。
たとえば、天然型ホルモン剤の「17-βエストラジオール」は、長らく残留基準値や1日の許容摂取量の設定が不要とされてきました。
しかし、その後、発がんリスクを高める恐れがあるとする研究が発表され、CODEXは新たに1日の許容摂取量を設定しました(なお記事執筆時点では、17-βエストラジオールの発がん性については、科学的に立証されていません)
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肥育ホルモン剤についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
https://www.yanochikusan.co.jp/1122/