肉の手帖

BSE(狂牛病)の原因や人間への感染、日本の対策や輸入国の状況について。

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BSE感染牛の頭数の推移

2019年1月、BSE(狂牛病)対策のために停止されていたイギリスからの牛肉輸入が一部解禁されました(※1)。BSEは人間に感染する可能性も指摘されているため、不安に思う方も多いのではないでしょうか。

今回は、BSEがどんな病気なのか、何が原因なのか、人間に感染するリスクはないのかなど、詳しく見ていきたいと思います。

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BSEとはどんな病気なのか(原因・症状について)

BSEは牛海綿状脳症とも呼ばれ、牛の脳が海綿のような状態になってしまう病気です。よく「牛の脳がスポンジのようになってしまう」といわれます。メイク用の海綿スポンジを想像していただくと、どんな状態かわかりやすいと思います。

海綿スポンジ

厚生労働省はBSEを次のように説明しています。

牛海綿状脳症(BSE)は、牛の病気の一つで、BSEプリオンと呼ばれる病原体に牛が感染した場合、牛の脳の組織がスポンジ状になり、異常行動、運動失調などを示し、死亡するとされています。かつて、BSEに感染した牛の脳や脊(せき)髄などを原料としたえさが、他の牛に与えられたことが原因で、英国などを中心に、牛へのBSEの感染が広がり、日本でも平成13年9月以降、2009年1月までの間に36頭の感染牛が発見されました。
厚生労働省「牛海綿状脳症(BSE)について」より)

ここでBSEの原因とされている「牛の脳や脊髄などを原料としたえさ」とは、肉骨粉(にくこっぷん)のことです。これは、羊や牛から食肉となる部分を取った後に残った肉の切れ端や脳、脊髄や骨、内臓などを混ぜて粉末状にしたエサで、カルシウムやタンパク質が豊富に含んでいます。値段も安いため、かつては畜産用のエサとして重宝されました。

ですが、2001年。この肉骨粉の中にBSE感染牛やスクレイピー(羊がかかるBSEと似た病気)の羊のお肉が混ざっており、それを多くの牛が食べたことが原因でBSE感染が拡大してしまいました。そのため日本では、2001年10月以降、肉骨粉を牛のエサとして使用することを禁止しています。

ちなみに牛肉の主要輸入先であるアメリカやカナダ、EU諸国の肉骨粉の規制状況は、以下のようになっています(記事執筆時点)

牛肉の主要輸入国の肉骨粉規制状況

表内の(★)のセルを例としますと、ここは「牛のお肉を使った肉骨粉を、反芻類(ウシやヒツジなど)に与えていいか?」を表します。セル内には「✕」があるので、与えてはいけません。

ご覧のように日本とEU諸国では、牛に対してどんな肉骨粉も与えてはいけません。一方、アメリカとカナダでは、豚と鶏のお肉を使った肉骨粉に限り、牛のエサとして使用することが認められています。

牛のエサの原料として使えるもの・使えないものについて詳しく知りたい方は、ぜひ以下のサイトもご覧ください。

BSEに関する飼料規制|独立行政法人農林水産消費安全技術センター
http://www.famic.go.jp/ffis/feed/r_safety/r_feeds_safetyj41.html

BSEは人間に感染する可能性がある(変異型クロイツフェルト・ヤコブ病について)

このBSE、実は人間にも感染する可能性があると考えられています。それによって発病するといわれるのが、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)です。

難病情報センターによりますと、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)とは、認知症や視覚・歩行の障害などを症状とする病気で、発病から半年以内で寝たきりになってしまい、その後、1〜2年のうちに呼吸麻痺や肺炎などによって死に至るとされます(※2)

病気の原因は、BSEと同じ異常プリオンタンパク質の増殖とされ、日本では毎年100〜200人の発病が確認されているようです(100万人に1人の割合)。いまだ有効な治療法がなく、難病に指定されています。

このクロイツフェルト・ヤコブ病のうち、BSE感染牛を介して発病すると考えられているのが、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病です。通常のクロイツフェルト・ヤコブ病と比べて、

  • 若い方に見られる
  • 発症してから死亡するまでの期間が比較的長い

といった違いがあります。日本では過去に1人、英国滞在歴のある方で変異型の発病が確認されています(※3)

各国で確認されたBSE感染牛の頭数(1989〜2016)

日本では2001年から2009年までに、合計36頭のBSE感染牛が確認されました。では、世界の状況はどうでしょうか。

国際獣疫事務局(OIE)によれば、1989年から2016年までに世界で確認されたBSE感染牛の頭数は、18万7,711頭です(※4)

BSE感染牛の頭数の推移

1992年の37,316頭をピークに、その後は各国が対策を徹底したことで一気に減少。2016年は、フランスとスペインで1頭ずつ、世界でわずか2頭しか確認されませんでした。

では、日本が牛肉を輸入している国ごとに見てみましょう。農林水産省の品目別貿易実績によれば、日本の牛肉の輸入元は次の国々です(2017年実績。上から輸入量が多い順です)(※5)

  • オーストラリア
  • アメリカ
  • カナダ
  • ニュージーランド
  • メキシコ
  • ポーランド
  • ニカラグア
  • アイルランド
  • バヌアツ
  • フランス
  • オランダ
  • チリ
  • デンマーク
  • イタリア
  • パナマ
  • ハンガリー

そして、各国で過去(1989〜2016)にどれだけBSE感染牛が確認されたかを、先のOIEのデータで確認すると次のようになります(単位:頭)

オーストラリア 0
アメリカ 3
カナダ 21
ニュージーランド 0
メキシコ 0
ポーランド 74
ニカラグア 0
アイルランド 1,656
バヌアツ 0
フランス 1,027
オランダ 88
チリ 0
デンマーク 16
イタリア 144
パナマ 0
ハンガリー 0

輸入量が最も多いオーストラリアはゼロで、続くアメリカは3頭。カナダは21頭で、ニュージーランドは0頭となっています。オーストラリアやニュージーランドは畜産が国益の柱のため、どこよりも早く徹底してBSE対策に取り組んできました。結果、これまで1頭もBSE感染牛を出していません。

一方、ヨーロッパの輸入元では、アイルランドが1,656頭、フランスが1,027頭と、BSE感染牛が多く確認されています。ただ、その大半は2000年代前半から半ばに集中しており、2016年にBSE感染牛が確認されたのは、フランスの1頭だけ。アイルランドはゼロでした。

ちなみにイギリスは、1990年代に10万頭を超えるBSE感染牛が確認されていましたが、2015年の2頭を最後に確認されていません。

BSEステータスと、輸入牛肉に対する日本のBSE対策について

このOIEは、加盟国のBSE対策を評価して「BSEステータス」というものを認定する活動も行っています。このステータスは、大きく3段階に分かれます。

  • 無視できるリスク(Negligible BSE risk)
  • 管理されたリスク(Controlled BSE risk)
  • 未認定

管理されたリスクとは、簡単にいえば「飼料規制などのBSE対策に取り組んでいるが、まだBSE感染牛が確認されている状態」です。

その対策が実を結び、過去11年間に国内で生まれた牛からBSE感染牛が出ていないなどの基準を満たすと、最上位の「BSEリスクを無視できる国」に認定されます。日本は2013年5月に「BSEリスクを無視できる国」となりました(※6)

 

2018年3月現在、世界各国のBSEステータスは、次のようになっています。

輸入先のBSEステータス一覧

日本の主な輸入先で見ますと、

  • 管理されたリスク:カナダ、フランス、アイルランド
  • 無視できるリスク:アメリカやオーストラリア、中国(香港とマカオは除く)

といった状況です(※7)

ただし、BSEリスクを無視できる国であっても、無条件で日本へ牛肉を輸出できるわけではありません。牛の月齢やBSEプリオンが蓄積するSRM(特定危険部位。詳細は後述)の除去など、日本が定めた条件を満たしている食肉処理施設だけが、牛肉を輸出できます。

そして厚生労働省は、これらの認定施設へ定期的に査察官を派遣し、日本へ輸出される牛肉がこの条件を満たしているかチェックします(※8)

結果、もし基準を満たしておらず、輸入元として不適切だと判断された場合、この施設は「輸入条件不適合事案」となります。同施設はその後、相手国による詳細な調査を受けたり、再発防止策を講じたりしなければなりません。これらの対策が完了しない限り、日本への牛肉の輸出を再開できません(※9)

日本国内のBSE対策について

では最後に、日本国内のBSE対策について見てみましょう。

牛の飼料への肉骨粉の混入防止

日本では牛のエサ(A飼料といいます)を運搬するトラックが、それ以外の家畜用のエサ(B飼料といいます)を運んではいけないルールになっています。BSEの原因と考えられている肉骨粉が、牛のエサに混入しないようにするためです。

これは飼料運搬用トラックに限った話ではありません。飼料を運ぶ容器や、飼料が運び込まれる施設なども対象です。たとえば、B飼料がA飼料を取り扱う施設に運び込まれた場合、すみやかに施設を洗浄処理しなければならないとガイドラインで定められています(※10)

と畜場でのさまざまな検査

1の対策によって、牛が肉骨粉の混ざったエサを口にする可能性は抑えられます。ですが、BSEのリスクがないエサを食べて育った牛でも、いつどんなことが原因となってプリオンに感染するかわかりません。

そこで、育った牛が食肉として解体されると畜場では、BSEに関するさまざまな検査が行われます。

この検査は大きく3段階に分かれています。

  • 生体検査:生きている牛にBSE症状がないか確認する
  • 解体前検査:と畜されて解体される前に血液検査などを行い、異常がないか確認する
  • 解体後検査:解体後の枝肉や内臓を調べて、異常がないか確認する

さらに解体後検査でBSE感染が疑われた場合、組織の一部を採取してプリオンに感染しているかを調べる「BSE検査」が行われます(※11)

と畜場のBSE検査の流れ

なお、上図にあるBSE検査は、これまで「48ヵ月齢」を超えた「健康なと畜牛」を対象に必ず実施されてきましたが、この実施基準は2017年4月に廃止となりました。以降は「生後24ヵ月齢以上の牛」のうち「生体検査でBSEの疑われる症状が確認された牛」などに限って実施されています(※12)

特定危険部位(SRM)の切除

BSEの原因であるBSEプリオンが蓄積する場所は決まっているといわれ、これを特定危険部位(SRM:Specified Risk Material)といいます。日本では牛をと畜する際、この特定危険部位の切除・焼却処理が義務づけられています。

具体的には、

  • 30ヵ月齢を超える牛の「頭」
  • 30ヵ月齢を超える牛の「脊柱(背根神経節)」
  • 30ヵ月齢を超える牛の「脊髄」
  • すべての月齢の牛の「扁桃」(へんとう)
  • すべての月齢の牛の「回腸遠位部」

が該当します。

牛トレーサビリティ制度

牛トレーサビリティ制度とは、2003年6月に公布された「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」に基づいて開始された取り組みです。簡単にいえば「牛が生まれてから消費者に届くまでの履歴を追跡できる仕組み」のことで、主にBSEのまん延防止を目的に始まりました。

牛トレーサビリティ制度について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

牛トレーサビリティの仕組みと消費者のメリットについて。

このようにさまざまなBSE対策に取り組んできた結果、日本はOIEから「BSEリスクを無視できる国」に認定されました。私たちが安全でおいしい牛肉を、安心して楽しめるのも、こうした輸入や検査などに関わる皆さんの努力があってこそというわけですね。

参照・引用

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