肉の手帖
A5は味の評価ではない。牛肉の等級 (ランク)の決まり方。
2019/02/06 追記
日本食肉格付協会様より多くの貴重な追加情報および画像をご提供いただき、記事の追記・修正を行いました。この場を借りて御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
牛肉にはA5、A4、B5といった等級(ランク)があります。一般的にはA5牛肉が最もおいしいお肉だといわれます。
ですが、この牛肉の等級、実はお肉の「味」は評価していません。そのため最高ランクといわれるA5の牛肉でも、必ずしもおいしいお肉とは言えないのです。
では、なぜA5の牛肉はおいしいと、一般的には言われるのか。
なぜA5の牛肉は値段が高いのか。
そもそもA5とA4の、A5とB5の牛肉の違いはなにか。
今回はそんな牛肉の等級について見ていきたいと思います。
牛肉の等級の全体像
牛肉の等級は、A5、A4、B5のように「アルファベット+数字」の形で表記されます。日本食肉格付協会が農林水産省から承認を受けた牛枝肉取引規格に基づいて、等級を決定しています。
アルファベットの部分は歩留(ぶどまり)等級といい、これは「その牛からどのくらい商品となる牛肉が取れるのか」を評価したランクです。いわば生産性の評価ですね。AからCの3段階があり、Aが最高ランクです。
一方、数字の部分は肉質等級といい、これは「牛肉の色沢」「牛肉の締まりときめ」「脂肪の色沢と質」「脂肪交雑(脂肪の入り具合)」の4つを総合的に評価したランクです。1から5の5段階があり、5が最高ランクです。
つまり、A5とは「商品となる牛肉がたくさん取れて、脂肪の色沢と質、牛肉の色沢や締まり、きめが良く、脂肪が多く細かい」という意味です。
では、2つの等級について詳しく見ていきましょう。
歩留(ぶどまり)等級について
歩留等級は「牛からどれだけ商品となる牛肉が取れるか」を評価したものです。
より具体的には、牛から頭・皮・足・内臓を取り除いた枝肉(えだにく)と呼ばれるお肉から、第6~第7肋骨間のロースやバラ面積を見て、商品となる部分肉(ぶぶんにく)がどれだけ取れるかを表しています。
(画像は、日本食肉格付協会「牛枝肉取引規格の概要」より。同協会より許可をいただき、パンフレットの一部を転載させていただいております)
1頭の牛から商品となる牛肉がどれだけ取れるかは、市場への牛肉の供給量に直結します。歩留等級が高ランクの牛が多いほど、牛肉を安定して供給できるようになります。
生産者は消費者の求めに応じて、牛肉をしっかり供給しなければなりません。そのため商品として販売できる牛肉(部分肉)がたくさん取れるかどうかは、とても大切な牛の資質です。
歩留等級を決定する方法
牛肉の歩留等級は「歩留基準値」によって決まります。
これは、次の式で求められます。
67.37
+ 【 0.130 × 胸最長筋面積(cm2)】
+ 【 0.667 × バラの厚さ(cm)】
― 【 0.025 × 冷と体重量(半丸枝肉kg)】
― 【 0.896 × 皮下脂肪の厚さ(cm)】
(公益社団法人日本食肉格付協会「牛枝肉取引規格」より)
少し難しいですが、噛み砕くとこうなります。
67.37
+ 【 0.130 × ロースの断面積(cm2)】
+ 【 0.667 × バラの厚さ(cm)】
― 【 0.025 × 冷やされた枝肉半分の重さ(kg)】
― 【 0.896 × 皮下脂肪の厚さ(cm)】
つまり、ロースとバラ肉がたくさん取れて皮下脂肪が少ない牛肉は、歩留等級が高くなります。
なお、肉用種(和牛など)の枝肉のみ、求めた基準値に2.049を加算して、最終的なランクを決定します。乳用種(ホルスタインなど)や交雑種などに、この加算はありません。
歩留等級の意味
こうして歩留基準値が求められたら、それがAからCのどの等級にあてはまるのかを調べます。
各等級の基準値は次のとおりです。
等級 | 歩留基準値 | 歩留 |
---|---|---|
A | 72以上 | 部分肉歩留が標準より良いもの |
B | 69〜72未満 | 部分肉歩留の標準のもの |
C | 69未満 | 部分肉歩留が標準より劣るもの |
歩留基準値が75なら歩留等級は「A」、68なら「C」となります。
ちなみに、この72や69というのは割合ではありません。歩留基準値が69というのは「枝肉の69パーセントが部分肉として提供できる」ことではないので注意しましょう。
Q:部分肉とは?
ここで部分肉について簡単に説明しておきたいと思います。
部分肉とは、ヒレ、カタ、スネ、サーロインなどの、部位ごとに切り分けられたお肉のことです。
ただ、牛肉の部位は人や地域によって数も名前もバラバラです。たとえば「カタロース」は、関東ではそのままカタロースと呼ばれますが、関西ではクラシタ(クラシタロース)とも呼ばれます。
日本食肉格付協会が「部分肉」として定義しているのは、次の13部位です。
- ネック
- カタ
- カタロース
- カタバラ
- ヒレ
- リブロース
- サーロイン
- トモバラ
- ウチモモ
- シンタマ
- ランイチ
- ソトモモ
- スネ
肉質等級とは?
肉質等級は名前のとおり「牛肉の質」を評価したランクです。
具体的には、次の項目を評価します。
- 脂肪交雑
- 脂肪の色沢と質
- 牛肉の締まりときめ
- 牛肉の色沢
それぞれの項目は、1から5の5段階でランク付けされます。いずれも5が最高ランクです。
そして気をつけなければならないのは、この4つの中で最も低い項目のランクが、その牛肉の最終的な肉質等級となる点です。
たとえば、脂肪の色沢と質、牛肉の色沢や締まりときめ、すべてが「5」でも、脂肪交雑が「3」となったら、この牛肉の肉質等級は「3」となります。
そのため、もともと脂肪が少ない褐毛和種や日本短角種などのお肉は、肉質等級が低くなる傾向にあります。
では、各項目について詳しく見ていきましょう。
脂肪交雑
脂肪交雑(しぼうこうざつ)とは、脂肪(サシ、霜降り)の入り方です。これは次の表のように見極められます。
まず牛肉の脂肪の入り方が、B.M.Sのどのナンバーに該当するかを見ます。
B.M.Sとは、Beef Marbling Standard(ビーフ・マーブリング・スタンダード)の略で、上の表のように12段階にランク分けされます。この基準にもとづいて、脂肪交雑が決定されます。ナンバーが大きいほど高ランクです。
脂肪の色沢と質
脂肪の色沢と質は、次の表のように評価されます。
まず脂肪の色沢と質が、B.F.Sのどのナンバーに該当するかを見ます。
B.F.Sとは、Beef Fat Standard(ビーフ・ファット・スタンダード)の略で、表のように7段階にランク分けされます。
見極める方法は、以下のとおりです。
- 脂肪の色と光沢 : 切開面の皮下脂肪・筋間脂肪を目で見て確認
- 脂肪の質 : 切開面の皮下脂肪・筋間脂肪、さらに外面と内面の脂肪を目で見て確認
この結果を踏まえて、最終的な等級が決定されます。ちなみに、B.F.S.はB.M.S.と違って、ナンバーの小さい(色が白に近い)ほうが高ランクです。
牛肉の締まりときめ
締まりときめは、次の表のようにランク分けされています。
等級 | 締まり | きめ |
---|---|---|
5 | かなり良い | かなり細かい |
4 | 良い | やや細かい |
3 | 標準 | 標準 |
2 | 標準に準ずる | 標準に準ずる |
1 | 劣る | 粗い |
締まり・きめは、ロースの断面を目で見て確認します。
牛肉の色沢
色沢は、次の表のようにランク分けされています。
B.C.Sとは、Beef Color Standard(ビーフ・カラー・スタンダード)の略で、表のように7段階に分けられます。牛肉全体を目で見て、No.1からNo.7までのどの色が認められるか確認し、色沢のランクを決定します。
なお、こちらはB.M.S.やB.F.S.と違い、中間(淡すぎず・濃すぎない色沢)にあるほど高ランクとなります。
(※B.M.S.、B.F.S.、B.C.S.に使用している牛肉の画像は、公益社団法人日本食肉格付協会様より許可を頂き、お借りしております)
肉質等級を見るときの3つの注意点
肉質等級を見るときには、以下の3点に注意しましょう。
- 基本的に見た目の評価である
- 牛肉の味に関する評価項目はない
- 最も低い項目の等級が、最終的な肉質等級となる
4つの指標をご覧いただくとおわかりのように、肉質等級は牛肉の見た目に関するものが多く、味を評価しているわけではありません。言い換えれば、A5やA4といった高ランクの牛肉でも、味がおいしいかは分からないということです。
では、なぜ「最高ランクのA5和牛が一番おいしい」と言われるのでしょう。
それは、霜降り肉を好む方が多いからです。市場が霜降り肉を求めているから、A5=最高ランク=おいしいとなるわけですね。
ただ、等級は味を直接評価したものではありませんが、味と無関係でもありません。牛肉のおいしさには脂肪の質が大きく関わってくるからです。この脂肪の質は、牛肉の等級を判定する指標のひとつとなっています。
牛肉のおいしさは消費者一人ひとりの嗜好性によるので、等級によって「この牛肉はおいしい」と保証はできません。ですが、おいしさに関わる要素を評価しているので、一定のおいしさは保証していると考えられます。
押さえておいていただきたいのは、牛肉の等級「だけで」おいしさは決まらないという点です。
A4〜A5の牛肉が高いのは、市場が求めているから
ところで、牛肉の等級と味が直接関係ないなら、なぜA5やA4などの牛肉は価格が高いのでしょうか。
もちろん味が良いのも一因ではありますが、それ以上に市場が求めているからというのが大きな理由です。松阪牛®や神戸ビーフ®(神戸牛®、但馬牛®)、近江牛®や米沢牛®などの有名ブランド和牛が高いのは、市場(つまり消費者)によって求められているためです。
そのため、近年は健康志向の高まりから需要が増えている褐毛和種や日本短角種といった赤身主体の牛肉も、価格が上がっています。
このように、牛肉の値段は味以外の要因によっても大きく上下します。
変わりつつある「おいしい和牛」の定義
格付けとは少し話がずれますが、ここで全国和牛能力共進会(以下、共進会)について少しふれておきたいと思います。これは5年に1度開催される和牛の品評会です。
この共進会は、より素晴らしい和牛を生み出していくために、毎回テーマを掲げて開催されています。
第1回 | 和牛は肉用牛たりうるか |
第2回 | 日本独特の肉用種を完成させよう |
第3回 | 和牛を農家経営に定着させよう |
第4回 | 和牛改良組合を発展させよう |
第5回 | 着実に伸ばそう和牛の子とり規模 |
第6回 | めざそう国際競争に打ち勝つ和牛生産 |
第7回 | 育種価とファイトで伸ばす和牛生産 |
第8回 | 若い力と育種価で早めよう和牛改良,伸ばそう生産 |
第9回 | 和牛再発見!-地域で築こう和牛の未来- |
第10回 | 和牛維新! 地域で伸ばそう生産力 築こう豊かな食文化 |
第11回 | 高めよう生産力 伝えよう和牛力 明日へつなぐ和牛生産 |
(全国和牛能力共進会「共進会の役割」より引用)
このうち2012年に開催された第10回共進会では、初めて赤身肉のうまみ成分であるオレイン酸などの不飽和脂肪酸の含有量が評価対象となりました。つまり評価項目に初めて「味」が採用されたのです。
また農畜産業振興機構のデータによれば、最近はA5の枝肉とA4、A3の枝肉の卸価格の差が縮まってきています。
2001年には、A5(2,527円)とA4(1,627円)の枝肉で900円、A4とA3(1,191円)の枝肉で500円の差がありました。
それが徐々に縮まっていき、2016年にはA5とA4で400円、A4とA3で300円となっています(グラフはメスの和牛のデータですが、去勢牛(オス)でも同様の推移をたどっています)
この変化にはさまざまな要因がありますが、消費者のニーズが霜降り肉から脂肪の少ない牛肉へシフトしている一つのサインと見ることができそうです。
実際、ここ最近は霜降りたっぷりの黒毛和種だけでなく、脂肪が少なくお肉本来のおいしさが凝縮された褐毛和種や日本短角種などの人気も高まっています。
健康志向の高まりなども受けて、今後は赤身肉の人気がさらに高まっていくかもしれませんね。
商標
- 「松阪牛®」は、松阪肉事業協同組合の登録商標です。
- 「神戸ビーフ®」「神戸牛®」「但馬牛®」は、兵庫県食肉事業協同組合連合会の登録商標です。
- 「近江牛®」は、滋賀県食肉事業協同組合の登録商標です。
- 「米沢牛®」は、山形おきたま農業協同組合の登録商標です。