肉の手帖

国産牛もエサの多くは外国産。輸入飼料の安全性について。

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飼料用とうもろこしの輸出入シェア

2019/03/12 追記
記事の追記・修正を行いました。

牛の食べているエサと牛肉の安全性には深い関係があります。たとえば、2001年にまん延したBSE(狂牛病)は、肉骨粉(にくこっぷん)というエサが原因となって起こりました。

ですが、牛がどんなエサを食べているのか、消費者の皆さんが把握するのは難しいです。たとえば、国産牛の多くが外国産のエサを食べていることは、あまり知られていません。

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日本の穀物とうもろこし自給率は0パーセント

牛のエサには大きく粗飼料と濃厚飼料の2種類があります。前者は草やそれをもとに作られたエサ、後者はとうもろこしや大豆などを粉末状にしたり圧ぺん加工(あっぺん。蒸気をかけて潰して外殻を割ること)したりして作ったエサです。

それぞれの使用量を調べてみると、少し古いデータですが、2011年度の肉牛用に使用された粗飼料と濃厚飼料の割合がありました。それによれば、粗飼料は10.8パーセント、濃厚飼料は89.2パーセント(※1)。多くの牛が濃厚飼料を食べて育っていることがわかります。

この濃厚飼料として代表的なのが、穀物とうもろこしです(これは私たちが食べるとうもろこしとは別のものです)

実はこの穀物とうもろこし、国内では生産されていません。すべて海外からの輸入に頼っています。その輸入量はおよそ1,500万トン(2016-2017年度)。全世界の輸入量(およそ1億3,500万トン)の1割以上を占めています(※2)

飼料用とうもろこしの輸出入シェア

(日本の穀物とうもろこしの輸入量は、EUとほぼ同じ。一方、生産量と輸出量は0です)

ちなみに、このデータは「穀物」としてのとうもろこしのみが集計の対象です。スイートコーンやベビーコーンなどは「野菜」に分類されるため、集計の対象ではありません(スイートコーンは日本でも生産されており、2016年の国内収穫量はおよそ19万トン(※3)。産地としては北海道や千葉県、長野県などが有名です)

 

また穀物とうもろこしは、配合飼料(複数のエサを混ぜ合わせて作ったエサ)の原料としてもよく使われます。配合飼料供給安定機構の調査によれば、肉牛用のエサとして使用された配合飼料全体のうち、実に40パーセント近くを穀物とうもろこしが占めています(※4)

配合飼料に占める飼料用とうもろこしの割合

これらのデータを踏まえますと、国内の牛の多くが、海外から輸入された穀物を食べて育っていると考えられます。つまり、日本で育った牛でも、エサ自体は外国産というわけですね。

エサの安全性を守るための製造規範「GMPガイドライン」

ここで気になるのは、外国産のエサの安全性だと思います。

エサが海外で生産されているため、私たちはその生産実態を直接知ることができません。では、輸入されたエサの安全性はどのようにチェックされているのでしょうか。

 

ここで事前知識として、まず日本のルールを見ておきましょう。

農林水産省は「GMPガイドライン」というルールを定めています。GMPは「Good Manufacturing Practice」の略で「適正製造規範」と訳されます。

このガイドラインの目的は次のようなものです。

近年、食品の安全確保に関しては、従来の最終製品の検査を中心とする考え方から、HACCP等の工程管理に重点を置いた考え方に変化しており、フードチェーンの一端を担う飼料についても、事業者自らが、原料段階から最終製品までの全段階においてこのような手法を導入し、飼料の安全をより効果的かつ効率的に確保していくことが重要です。

このため、飼料の適正製造に係る現行のガイドラインを統合するとともに、安全な飼料を供給するために実施する基本的な安全管理(GMP)を事業者自らが導入するための指針として、「飼料等の適正製造規範(GMP)ガイドライン」を別紙1のとおり定めたので、御了知の上、関係者に対する周知をお願いします。

独立行政法人農林水産消費安全技術センター「飼料等の適正製造規範(GMP)ガイドラインの制定について」より)

つまり「もともと食品の安全性は、出来上がった製品を検査して確認していたけど、今後はスタート地点(ここではエサの材料)の安全性確認から徹底しよう」というわけです。

 

このガイドラインでルールが定められている工程には、次のようなものがあります。

  1. 組織及び従業員
  2. 施設等の設置及び管理
  3. 調達する原料等の安全確認
  4. 衛生管理
  5. 工程管理及び品質管理
  6. 試験検査
  7. 自己点検
  8. 異常時対応
  9. 苦情処理
  10. 回収処理
  11. 行政や関係機関との連携

エサを製造・輸入・販売する人たちは全員、このガイドラインで定められた上記11項目の手続きや基準を遵守する必要があります。また独立行政法人農林水産消費安全技術センターが立ち入り検査を行い、不十分なところがあれば指導します(※5)

そしてガイドラインがしっかり守られていると確認された事業者には、同センターから証明書が交付されます。これらの事業者一覧は同センターの以下のホームページから確認可能です。

飼料等の適正製造規範(GMP)ガイドライン適合確認事業場 飼料又は飼料添加物の製造業者|独立行政法人農林水産消費安全技術センター

 

ちなみに農林水産省などのホームページをご覧いただくと、ほかにも以下の4つのガイドラインがあることがわかります。

  • BSEガイドライン
  • サルモネラ対策ガイドライン
  • 抗菌剤GMP
  • 有害物資混入防止ガイドライン

これらはGMPガイドラインが策定される前に機能していたガイドラインで、今はGMPガイドラインに統合されています。

外国にもGMPガイドラインがある

そして、海外諸国でも日本のGMPガイドラインと同様のものが策定されています。正確には海外で先にGMPのガイドラインが策定されており、そちらとの整合性を取るために日本でも同様のガイドラインが定められました。

EUとアメリカのGMPガイドラインの内容

たとえば、穀物とうもろこしの輸入先の一つであるアメリカでは、日本のGMPにあたるcGMP(current Good Manufacturing Practices)などの遵守を製造事業者に義務づけており、その対応状況をFDA(Food and Drug Administration。日本の厚生労働省にあたる組織)が確認しています。

また日本では、輸入飼料の安全性を担保するために、他にも様々な規定を設けています。たとえば、

  • 飼料を輸入する事業者は、事前に農林水産省への届け出が必要である
  • 海外で認められている飼料添加物でも、国内で規制されている場合は使用不可である

などです(※6)。そして飼料を牛に与える畜産農家に対して「正しいエサの与え方」の周知なども行っています(※7)

このように外国産の輸入飼料も、その安全性を担保するために、国内外で様々な対策が講じられています。

ちなみに、飼料用の穀物とうもろこしは現在、自給の動きが出てきています。輸入に頼りきりですと、価格高騰などの影響で畜産業全体が影響を受けてしまうためです。今後は色々なエサで自給の動きが加速するかもしれませんね。

参照・引用

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