肉の手帖
初めてでも簡単! 切り落とし牛肉と塩だけで作る旨みしっかり&ジューシーなご馳走ハンバーグ
洋食の定番メニュー、ハンバーグは、家庭で作る肉料理としても人気の一品。
一般的には、「ハンバーグとは挽き肉に玉ねぎやパン粉などのつなぎを混ぜ合わせて形作って焼いたもの」と思われていますが、ここでは、もっと簡単に作れて、しかも牛肉のおいしさを存分に楽しめるハンバーグの作り方をご紹介したいと思います。
挽き肉がなくてもおいしいハンバーグが作れます
ハンバーグという名前は、ドイツの港町「ハンブルグ」で食べられていた料理(アメリカで「ハンブルグ風ステーキ」と呼ばれたもの)に由来しますが、もっとルーツをたどると、騎馬民族のタタール人が硬い肉を食べやすくするため細かく刻んで調理した料理だといわれています。つまり元々は挽き肉の料理というわけではなかったのです。
そんな歴史にも思いをはせながら、手に入りやすい牛薄切り肉を使って、牛肉の味わいが堪能できるビーフ100%ハンバーグを作ってみませんか?
薄切り肉でハンバーグを作るメリットとしては次のようなことが挙げられます。
- 挽き肉より薄切り肉を刻んで作った方が肉感があり、ジューシーな味わいになる。
- 薄切り肉なら自分の好みの部位(ロース、バラ、モモ、ウデなど)の肉を選んでハンバーグを作ることができる。
- 好みの価格の肉を選べ、粗びき風、赤身主体など好みのバランスでハンバーグを作ることができる。
- 加工してから時間が経った挽き肉より作る時に肉を刻む方が肉の酸化が少ない。
また、牛薄切り肉のみを使うことで、ハンバーグステーキと呼ぶにふさわしいごちそう感のある一品にすることが可能です。
そして、牛肉の薄切りといってもすき焼き用などの高級品を使う必要はありません。「切り落とし」「小間切れ」と呼ばれるリーズナブルなもので十分おいしいハンバーグが作れるのです。
今回は下の写真の「国産牛ロース切り落とし」を使って、作り方をご紹介します。
ハンバーグ作りで最も重要なのは「塩」。つなぎは入れなくても大丈夫
焼いても割れたりしないハンバーグ、肉汁たっぷりのハンバーグを作るためにはパン粉や卵などの「つなぎ」が必須だと思っていませんか?
確かにつなぎはハンバーグをふんわりとした食感にし、量を増すことにも役立ちます。しかし、もっと重要なのは、肉に粘りをだしてしっかり結着させるのに大きな役割を果たす「塩」です。
牛肉のタンパク質に塩分が加わると結着力、保水性が増すため適量の塩さえ加えればそれだけで適度な弾力があって肉汁と旨みをしっかり閉じ込めたハンバーグが作れるのです。
海塩と岩塩のどちらがハンバーグ作りに適しているかは、「海塩に含まれるにがりが肉に及ぼす影響」や「鉄分含有で赤い色がついた岩塩と牛肉の鉄分の相乗効果」といった理由で諸説があります。
プロの料理人では肉の調理には岩塩を用いるという人が多いようですが、家庭では味の好みで選べばよいでしょう。
では塩の量はどうでしょうか。人間がおいしいと感じる塩分濃度はおおむね0.8%前後といわれているので、牛肉と塩だけでハンバーグを作る時には、加える塩の量は肉重量の0.5~0.8%を目安にします。
- 用いる塩の種類や牛肉の脂肪量によって食べた時に感じる塩辛さは多少変わります。
- 塩分濃度が濃い方が結着力は増しますが、牛肉と塩のみで作る場合、ソースなしで味わうのなら0.8%でも良いですが、ソースを添える場合は0.8%では塩味が効きすぎになります。
- 牛肉以外に玉ねぎやパン粉、牛乳などの材料を使う時は、塩の量は材料総重量の0.6~0.8%程度を目安にするとよいでしょう。
玉ねぎを使わないハンバーグなら、時短・失敗減少・ステーキ感UPが可能
ハンバーグの材料として多くの人が思い浮かべるのが玉ねぎだと思います。玉ねぎは、肉と味の相性が良い素材ですが、みじん切りが粗すぎたり、炒め方が足りずに焼いている途中に玉ねぎから水分がでるとハンバーグが割れる原因にもなります。
また、みじん切りやしっかり炒めた後に冷ましてから使うには時間もかかり、料理初心者には難易度が少し高いかもしれません。
むしろ思い切って玉ねぎを使わずハンバーグを作ってみれば失敗の原因を減らすことができ、肉感も増すので、よりステーキ的な仕上がりにすることが可能です。
切り落とし肉を使った牛肉100%ごちそうハンバーグの作り方
<材料>
*ハンバーグ用
牛肉切り落とし肉 | 100〜150g | ハンバーグ1個あたり。薄切り、小間切れでも可。 |
塩 | 牛肉の重量の0.5〜0.8% | ソースを添える場合は少なめに。脂を取り除く場合は、取り除いた後の重量を計って塩の量を決めること。 |
*ソース用(できあがり100cc程度の場合)
とんかつソース | 大さじ3 | |
ケチャップ | 大さじ3 | |
赤ワイン | 大さじ2 | ブランデー・小さじ2でも可。アルコールを使いたくない場合は水・大さじ2。 |
基本材料は牛肉と塩のみ。
もし他に加えるなら、定番の玉ねぎやナツメグもいいですが、つなぎなし牛肉100%ハンバーグには以下に挙げたものがよく合います。ただし香辛料類の加えすぎにはご注意を。
- 黒コショウ:できれば粗挽きか、挽きたてを。
- にんにく:すりおろして隠し味程度に加えると肉の旨みがひきたちます。
- ハーブ類:ローズマリー、セージなど好みで。
<作り方>
基本は
- A 切る
- B こねる
- C 形作る
- D 焼く
の4ステップ。 ソースも一緒に作るならここに「Eソース作り」の手順が加わります。
A 肉を切る
1)肉の状態をチェックし、脂が多すぎるようなら取り除きます。
つなぎを使わない場合、脂が多いと焼いた時に縮みやすくなりますが、ある程度の脂があった方が旨みがでます。
余分な脂を取り除いた後の肉の重量を計って塩の量を決めます。
【ここがコツ!】
・肉は使う前に冷蔵庫でしっかり冷やすか、冷凍庫にしばらく入れて凍りかけの状態にしておくと脂が溶けださず扱いがラクです。
2)薄切り肉なら適当に重ねて、切り落としや小間切れならひとかたまりにして縦横に包丁を入れます。挽き肉のように細かく刻まなくても1片が2センチ角程度なら大丈夫。
【ここがコツ!】
・取り除いた脂はハンバーグを焼く時に使うので残しておきます。それでも残るようなら炒め物やチャーハンなどに使うのがおすすめ。
B 肉をこねる
1)肉に塩を加えて、よく混ぜます。
掌で肉を握りこむようにしながら錬りはじめ、粘りがでてきたら全体をかき混ぜるようにしながらしっかりこねます。これがハンバーグの「たね」になります。
【ここがコツ!】
・室温、体温で牛脂が溶けると味が損なわれるので、氷水などで冷やしながら行うと良いでしょう。
C 形をつくる
1)練った肉をボウルの中で作る個数に分割し、一個ずつ形作っていきます。
まず大体の形にまとめてから、片方の掌に軽く打ち付けることを繰り返して(両手の掌を使ってキャッチボールする感じ)空気を抜きながら形を整えます。
2)好みの形に成形できたら、中心部にくぼみをつけます。これは焼いた時に中心部だけが膨らみすぎて形が壊れるのを防ぐためです。
【ここがコツ!】
・空気が入っていると焼いた時に割れるので、10回以上は繰り返してしっかり空気を抜きます。ただし成形に時間をかけすぎると脂が溶け出すのでなるべくすばやく行うことがポイント。
・成形したハンバーグ種は冷蔵庫で30分程度休ませてから焼くと、味がなじむと同時に割れにくくなります。
D 焼く
1)使い慣れたフライパン(慣れないうちは焦げ付き防止加工されたフライパンが便利)を中火にかけ、とっておいた牛脂(なければサラダオイル、オリーブオイルなど)を少量入れて熱くなったところでハンバーグ種をくぼみをつけた方を上にして、形をこわさないよう注意して並べていきます。
【ここがコツ!】
・写真程度の脂の混ざり具合であれば、ハンバーグの脂が溶け出すのでフライパンに脂を入れる必要はありません。
2)中火~弱めの強火で3分程度焼いて、焼き色をチェック。
3)好みの焼き色になったらフライ返しを使って裏返します。
【ここがコツ!】
・裏返してすぐは壊れやすいのであまり動かさず、中火で1分程度焼いてから位置を整えてください。
4)位置を整えたら蓋をします。フライパンの蓋がない場合はアルミホイルで覆ってください。蓋をしたら弱火にして、5分程度蒸し焼きにします。
【ここがコツ!】
・フライパンの中でも真ん中に置いたものと端に置いたものでは焼き加減が違ってきます。そのためなるべく同じように熱が伝わる位置に並べましょう。
5)ハンバーグの真ん中に竹串を刺し、でてきた汁が透明なら焼き上がりです。 下の写真のように赤い肉汁がでるなど色がついている場合は、蓋をして弱火でもう少し加熱してください。火が強すぎると底が焦げるので注意。
でてくる汁が透明になった時にすぐ切ってみると中はこんな感じに火が通っています。皿に盛り付けた時にはここから余熱でもう少し火が入ることになりますが、肉汁はたっぷり。ジューシーな仕上がりです。
E ソースを作る
1)ハンバーグを焼き上げた後のフライパンに、とんかつソース、ケチャップ、赤ワインかブランデーあるいは水を加えて混ぜながら好みの濃度になるまで煮詰めます。
【ここがコツ!】
・フライパンに残った油分が多すぎる時(大さじ1以上ありそうな時)やあっさりしたソースを作りたい時は、スプーンなどで油分を少し取り除いておくとよいでしょう。
・ただし残った油には旨みが多く溶け込んでいることや、油分はソースの艶やなめらかさの元にもなるので、取り除きすぎはNGです。
F 完成!
牛肉100%のごちそうハンバーグ。こんなアレンジも
○牛肉好きにおすすめ:グリルハンバーグ
少し奮発した牛肉を使ってハンバーグを作るのなら、鋳鉄製などのグリルパンで焼くのがおすすめです。余分な脂が落ちて表面がカリっと焼き上がり、牛肉の香ばしさが堪能できます。
フライパンのようにハンバーグを焼いた後にソースを作ることはできませんが、付け合わせの野菜を一緒にグリルできるのも魅力です。
○和食の一品として:照り焼きハンバーグ
フライパンでハンバーグを焼き、火が通ったところに照り焼きたれの材料を加えて、照りととろみがでるまで中火で煮詰めながらからめます。
照り焼きたれの材料は、
醤油2:みりん2:酒2:砂糖1の割合
と覚えておくと便利。あらかじめよく混ぜて砂糖を溶かしておきます。
写真では梅肉を添えていますが、粉山椒もよく合います。また、照り焼きたれに生姜のみじん切りを加えてもよいでしょう。
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挽き肉を使わず、切り落とし肉などの薄切り肉で作るハンバーグは、調理に慣れていない人でも簡単に作れるだけでなく、料理好きも納得の奥行きのある味わいです。 牛肉のおいしさをたっぷり楽しんでみたい時にぜひお試しください。