肉の手帖

牛の品種(黒毛和種や褐毛和種など)による牛肉の味や肉質の違い。

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熊本県の褐毛和種

食用の牛肉(肉牛)は、大きく肉専用種と乳用種に分けられ、それぞれ味の特徴やおいしい部位が違います。

肉専用種で有名なのは和牛です。その90パーセント以上は黒毛和種と呼ばれる品種が占めています(※1)

黒毛和種は、脂肪(いわゆるサシ、霜降り)が多くジューシーなのが特徴。高級牛肉として人気が高い松阪牛®(三重県)、神戸牛®や但馬牛®(兵庫県。神戸ビーフ®とも)、近江牛®(滋賀県)などの和牛は、すべてこの黒毛和種です。

一方、最近は消費者の健康志向が高まり、お肉がやわらかく霜降りが少ない、それでいて肉汁たっぷりな褐毛和種(あかげわしゅ)の人気も高まってきました。
こちらは熊本県のくまもとあか牛や、高知県の土佐和牛などが有名です。ただ、その数は全国にわずか2万頭ほど(和牛全体の0.01パーセント)しかいない、とても希少な牛です(※2)

乳用種は、もともと乳を搾るための牛が、その役目を終えて食肉用に回ったものです。肉専用種と違い食肉専用の牛ではないので、お肉の味そのものは肉専用種に敵いません。ですが、ミノなどの部位は、実は乳用種のほうがおいしいです。

このように、ひとことに「牛肉」といっても、その種類ごとにさまざまな違いがあります。

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肉牛の分類

褐色和種の牛たち

肉牛の全体像、各品種ごとの特徴は次のようになります。

肉専用種(食肉専用に育てられた牛の総称)
和牛 黒毛和種、褐毛和種、日本短角種(にほんたんかくしゅ)、無角和種(むかくわしゅ)の4種類。
交雑種 異なる品種を交配して誕生した牛。和牛どうしの交配で誕生した「和牛間交雑種」の牛と、乳用種と和牛が交配した牛がいます。F1とも呼ばれます。
外国種 外国で産まれた食肉用の牛の総称。アバディーン・アンガス種、ヘレフォード種などが有名です。
乳用種
乳用種 オスの乳牛と乳搾りを終えて食肉用に回ったメスの乳牛の総称。ホルスタイン種が最も多く、ほかにジャージー種や交雑種などがいます。

ちなみに、和牛はイコール「国産の牛」ではありません。オーストラリアやアメリカなどの海外で産まれ、輸入されて日本のデパートやスーパーで売られているものがあります。

実は世界的には、このオーストラリア産の和牛のほうが有名で、日本だけでなくヨーロッパ各国や中国、ロシアや韓国、シンガポールなど多くの国へ輸出されています。日本も現在、国産和牛の輸出や海外向けのプロモーションに力を入れています。

では、まず肉専用種の代表格「和牛」の特徴から見ていきましょう。

和牛の定義

農林水産省が2007年に定めた「和牛等特色ある食肉の表示に関するガイドライン」によれば、和牛と認められるには次の4つの条件があります(※3)

1:黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種のいずれか、あるいはこの4種の交配によって産まれた交雑種である
2:国内で産まれ、国内で飼育された牛である
3:1を満たしていることが、家畜改良増殖法に基づく登録制度などによって証明できること
4:1と2を満たしていることが、牛トレーサビリティ制度によって確認できること
(農林水産省「和牛等特色ある食肉の表示に関するガイドライン」より)

そのため厳密には、ガイドラインが制定された後に輸入された外国産和牛は和牛ではありません。この両者を区別するために、外国産和牛はよく「WAGYU」と表記されます。 ちなみに、現在オーストラリアなどで産まれている「WAGYU」は、90年代に日本から海外へ渡った和牛の血を受け継いだ牛たちです。

ここで、ガイドライン4項目のなかにある(和牛)登録制度と牛トレーサビリティ制度について、簡単にふれておきたいと思います。

Q:和牛登録制度とは?

人間でいう戸籍のようなものが和牛たちにもあります。それが「和牛登録制度」です。これには、人間の出生届にあたる「子牛登記」と、繁殖用の牛(繁殖牛)となるための「登記」の2種類があります。

後者の登記は、さらに基本登録、本源登録、高等登録の3種類に分かれます。

  • 基本登録:特別な審査を経て、繁殖牛としての基本的な能力が証明された牛
  • 本源登録:特別な審査を経て、繁殖牛として優秀だと証明された牛
  • 高等登録:特別な審査を経て、特に優秀な子牛を多く産んだと証明された基本/本源登録済みの牛

下にいけばいくほど、繁殖牛として優秀だと判断されます。

Q:牛トレーサビリティ制度とは?

2001年、日本で初めてBSE(牛海綿状脳症。狂牛病)が確認されたのを受けて、2003年から始まった制度です。簡単にいえば、牛が産まれてから消費者である皆さんの手元へ届くまでの履歴(どこで産まれ、誰が育て、誰が仕入れて販売したのかなど)が追える仕組みを指します。

牛にはそれぞれ10桁の個体識別番号(人間でいうマイナンバー)が与えられていて、その番号を家畜改良センターが運営する「牛の個体識別情報検索サービス」というサイトで検索すると、この履歴が閲覧できます。

※牛の個体識別情報検索サービス
https://www.id.nlbc.go.jp/top.html

個体識別番号は、商品ラベルに記載されています。なお小間切れ肉やひき肉など特定のお肉については、個体識別番号の省略が許可されているので記載はありません。

ちなみに、2011年の東日本大震災の時、福島県で身元がわからなくなっていた牛たちも、この個体識別番号のおかげで身元がすべて確認されました。

牛トレーサビリティについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

牛トレーサビリティの仕組みと消費者のメリットについて

それぞれの和牛の特徴

現在、和牛には黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4種類がいます。それぞれの肉質の大まかな特徴は、次のとおりです。

種別 脂肪の量 肉汁の量
黒毛和種 多い 多い
褐毛和種 少ない 程よい
日本短角種 少ない 程よい
無角和種 少ない 程よい

黒毛和種の味・肉質の特徴

黒毛和種の牛たち

黒毛和種の特徴は、なんといっても霜降り。黒毛和種の脂肪は融点の低いオレイン酸が豊富なため、肉が溶けたように感じられるほど口溶けが良いです。

また和牛香(わぎゅうこう)と呼ばれる甘い香りが楽しめるのも、黒毛和種ならでは。脂肪が多いお肉を薄切りにして5日ほど置いてから80度で加熱すると、和牛の脂肪に独特のコクがある甘い香りが広がります(※4)

褐毛和種の味・肉質の特徴

褐毛和種の牛たち

褐毛和種は「あか牛」とも呼ばれ、霜降りと赤身のバランスが良いのが特徴です。

赤身肉には遊離アミノ酸などのうま味成分が凝縮されているため、あか牛は霜降りとあわせて肉本来の味も存分に楽しめます。

この霜降りと赤身肉の良いバランスは、放牧で育てられることとエサの種類が関係しています。

褐毛和種は一般的に放牧で育てられます。放牧とは広大な草原を動き回りながら自然に生えている牧草を食べることで、この飼育法によって赤身肉のうま味成分が増えることが研究でわかっています(※5)

なお、牛舎のなかで育てられる褐毛和種もいます。すべての褐毛和種が放牧で育てられているわけではないので注意してください。

ちなみに、牧草を食べて育った牛のほうがモツ(内臓の総称)はおいしいといわれます。消化の悪い牧草をエサとしており、内臓が鍛えられているからです。

なお、牛肉の格付けは「脂肪の量と質」が重視されるため、脂肪が少なくてヘルシーな褐毛和種の格付けはそれほど高くありません。そのため、残念ながら「格付けが高くないからおいしくない」と誤解されてしまうことがあります。実際、格付けとお肉の味に直接的な関係はありません。

日本短角種の味・肉質の特徴

日本全国で約8,000頭(和牛全体のわずか0.0005パーセント!)しかいない日本短角種は、青森・岩手・秋田・山形など東北地方に多い和牛です(※6)。中でも岩手県の「いわて短角和牛®」が有名です。

味や肉質の特徴は褐毛和種と似ていて、きめ細かい脂肪と赤身のバランスが良くて、とてもヘルシー。お肉の噛みごたえと、噛めば噛むほど深まる赤身肉の味わいが魅力です。ほんの少し塩やこしょうで味付けをしたステーキや焼き肉など、シンプルに調理していただくのが、お肉そのものの味を楽しめておすすめです。

日本短角種は、春から秋にかけては山で、冬は山を下りて草原に放牧して育てる「夏山冬里(なつやまふゆさと)方式」という飼育法で育てるのが一般的です。この方式では、交配も出産も子育ても、牛たちが人の手を借りないで自分で行います。

また日本短角種の牛は気性も穏やかで人の手がかからないので、自然とすくすく育っていきます。

無角和種の味・肉質の特徴

無角和種は、文字どおり「角」が「無い」牛です。日本短角種よりもさらに希少で、国内にわずか200頭ほどしかいません(※7)。主に誕生の地である山口県阿武群(山口県特産無角和牛肉)で、大切に受け継がれています。

肉質としては、ほぼ筋肉(赤身肉)のため噛みごたえがあります。アミノ酸が豊富なため、噛めば噛むほど味が深まるのが特徴です。特にステーキなどの料理に向いています。

(参考)牛肉の格付けとは?

牛肉の格付け制度の全体像

ここで先ほど少しふれた「格付け」について、簡単にお伝えします。

牛肉の格付けとは、日本食肉格付協会が牛肉の品質を評価して等級(ランク)を与えることです。等級には歩留等級(ぶどまりとうきゅう)と肉質等級があります。

歩留等級について

歩留等級とは、商品となるお肉(部分肉といいます)が取れる割合のことで、AからCのアルファベット3段階で評価されます。Aが最も良い評価(=最も多く取れる)です。

肉質等級について

肉質等級とは、お肉の色や光沢・脂肪の量や質などを評価する等級です。学校の成績のように1から5の5段階で評価されます(5が最も良い評価です)

評価項目は、次の4つです。

  • 脂肪交雑
  • 肉の色沢
  • 肉の締まりときめ
  • 脂肪の色沢と質

脂肪交雑(サシ、霜降り)の評価基準は、さらに次のように細分化されます。

等級 評価基準
1 No.1
2 No.2
3 No.3〜4
4 No.5〜7
5 No.8〜12

下にいくほど脂肪が多いです。No.12と評価されたお肉は、最も脂肪が多いというわけですね。

ちなみに、この脂肪交雑は「味」ではなく「見た目」の評価です。等級が大きい=脂肪が多いほど「見た目が良いお肉」というわけです。味の点でいいますと、No.12のお肉は脂肪が多すぎて、とても食べられません。

 

ここで注意点を1つ。この肉質等級は、最も評価が低い項目の等級がそのお肉の肉質等級として採用されます。

たとえば、お肉の色が「5」でも、脂肪交雑が「2」なら、このお肉の肉質等級は「2」となります。そのため脂肪の少ない褐毛和種や日本短角種は、肉質等級が低くなりやすいです。 最終的な評価は、この2つの等級を合わせて「A5」や「A4」のように表記されます。

「格付けが高い/低い=そのお肉がおいしい/おいしくない」ということではありません。肉質等級の仕組みからわかるように、お肉の味と格付けはそこまで関係がないのです。

ちなみに牛の血統は味と関係が深いので、お肉のおいしさを見極める一つの有効な指標となります。

 

牛肉の格付けについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

A5は味の評価ではない。牛肉の等級 (ランク)の決まり方。

オーストラリア産牛肉の味・肉質の特徴

農林水産省によれば、2017年に海外から輸入された牛肉は、およそ57万トン。金額にして約3,500億円分にも上りました(※8)

輸入先の内訳は、1位がオーストラリア(50.2%)、2位がアメリカ(41.8%)、3位がカナダ(3.3%)、そこからニュージーランド、メキシコ、ポーランド、ニカラグアと続きます(数量ベース)

各国からの牛肉の輸入量(割合)

輸入牛肉の大半を占めるオーストラリア産は、昔は「脂肪が少ない」「においが気になる」と嫌煙されることも少なくありませんでした。オーストラリアの牛は青草を食べるため、そのニオイがお肉についてしまうのです。このにおいは、牛に穀物を与えるとなくなります(ちなみに羊やヤギも青草を食べて育つため、においが少しきついです)

ですが、最近のオーストラリア産牛肉は、霜降りと赤身のバランスが良く、独特のニオイもほとんどありません。日本の和牛でいえば、褐毛和種に近いです。

 

ちなみにオーストラリア産をはじめとする輸入肉は、国産の牛肉と比べて値段が安く、半額ほどです(※9)。なぜこんなに差が出るのでしょうか。

オーストラリア産の「WAGYU」に関していえば、牛の成長が早く、質が良いからです。

オーストラリアでは、日本でいう黒毛和種が放牧で育てられています。黒毛和種は本来、牧草で体重を増やすのが難しいため、日本では主に穀物など(濃厚飼料)で育てます。しかし濃厚飼料は高価で、当然そのコストは消費者の購入価格に反映されます。

一方、オーストラリアでは品種改良の努力によって、牧草ですくすく育つ黒毛和種が誕生しました。つまり、おいしい黒毛和種のお肉を、日本の畜産農家より低コストでたくさんつくれるので、価格が抑えられているというわけです。

乳用種の味・肉質の特徴

乳用種の牛たち

乳用種とは、オスの乳牛と、乳搾りの役目を終えたメスの乳牛のことです。ホルスタイン種などが該当します。なおオスでも、種雄牛(親牛として優れているオスの牛)になる場合は、繁殖に回されます。

乳用種はもともと食肉用の牛ではないので、お肉は脂肪が少なく、肉専用種と比べると少し硬いです。ですが、焼肉の人気メニューでもあるミノは、実は乳牛のほうがおいしいことで知られます。
ミノとは、4つある牛の胃の中の一つ「ルーメン」のことです(第1胃とも呼ばれます)。ここにはたくさんの微生物がいて、牛の食べた牧草などを発酵・分解しています。お肉屋さんや焼肉屋さんなどでは「ミノ」という名前で販売されます。

なぜ乳用種のミノはおいしいのか? それは肉専用種とのエサの違いです。

肉専用種は(品種にもよりますが)基本的に濃厚飼料をエサとします。これは消化にやさしいので、胃にそこまで負担がかかりません。
一方、乳用種は粗飼料(そしりょう。牧草やわらなどの総称)を食べて育ちます。これは濃厚飼料より消化が悪いので、乳用種はルーメンをはじめとする4つの胃をフル稼働して、がんばって発酵・分解・吸収します。これによって胃の筋肉が鍛えられるため、乳用種のミノは肉専用種のより歯ごたえがあっておいしくなるのです。

ちなみに乳牛の1日の食事時間は、8時間の咀嚼(食べたものを噛み砕く)と8時間の反芻(消化し切れなかったぶんを咀嚼に戻す)を合わせて計16時間にもなります。

このように、お肉はその種類ごとに味や肉質に特徴が異なります。当然どんな料理にどんなお肉が合うかも違ってくるので、それぞれの特徴を踏まえた上で選ぶと、お肉をよりおいしく楽しめます。

参照・引用

商標

  • 「松阪牛®」は、松阪肉事業協同組合の登録商標です。
  • 「神戸ビーフ®」「神戸牛®」「但馬牛®」は、兵庫県食肉事業協同組合連合会の登録商標です。
  • 「近江牛®」は、滋賀県食肉事業協同組合の登録商標です。
  • 「いわて短角和牛®」は、全国農業協同組合連合会の登録商標です。
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